大判例

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仙台高等裁判所 昭和30年(う)431号 判決

(一)原判決は、原判示第一において、被告人が原判示二月三日頃原判示選挙事務所で原判示渡部半左衛門から原判示八田候補者のため投票取纏等の選挙運動方を依頼された上、その報酬及び資金として供与されるものであることの情を知りながら同人より現金一万七千円の供与を受けたとの事実、及び原判示第四の(一)において、右候補者の当選を得しめる目的で、同月三日頃肩書自宅で原判示小林勇、渡部好雄、小林隆の三名に対し同候補者のため投票取纏等の選挙運動方を依頼し、その報酬及び費用として現金一万六千二百三十円を供与したとの事実を認定し、これを刑法第四十五条前段の併合罪として処断している。

しかし、原判決挙示の証拠によれば、右一万七千円は被告人一人が同候補者のため選挙運動をすることの自分だけの報酬及び資金として供与を受けたものではなく、また右一万六千二百三十円は前記小林勇等三名に対し同候補者のため選挙運動をすることの右三名だけの報酬及び資金として供与したものではない。即ち、被告人は右二月三日右選挙事務所で前記渡部半左衛門から被告人が会長をしている八田後援会の八田部落の幹部七名と被告人とが相談して八田候補者のため投票取纏等の選挙運動をすることの報酬及び資金に使用する金という趣旨で、その右八名分の金として不可分的に現金一万七千円の供与を受けた上、同日肩書自宅で前記八田後援会の八田部落の幹部である小林勇、渡部好雄、小林隆の三名に対し右半左衛門から依頼された趣旨を告げて、右八名が相談して同候補者のため投票取纏等の選挙運動をすることの報酬及び資金に使用する金という趣旨で、その右八名分の金として不可分的に前記一万七千円中一万六千二百三十円(被告人の独断で会員等のそば代その他に計七百七十円を使用した残り)を供与した事実関係であることが認められる。

されば、右一万七千円は、一種の負担附受供与ではあるけれども、被告人の分の受供与と前記幹部七名の分の受交付とが不可分的に渾然一体の関係にあり、右一万六千二百三十円は、一種の負担附供与ではあるけれども、前記小林等三名の分の供与と他の幹部四名の分の交付と被告人の分の保管委託とが不可分的に渾然一体の関係にあり、しかも前記幹部七名の分の受交付は右小林等三名の分の供与及び他の幹部四名の分の交付中に不可分的に吸収せられる関係にあるものであつて、結局、全体的にみた右負担附受供与及び負担附供与が包括一罪を構成するものとみるのが相当である。

それ故、原判決は理由齟齬の違法があり、かつ法律の適用を誤つたものである。

(二)また、原判決は、原判示第二において、被告人が原判示二月七日頃原判示地内路上で、前記渡部半左衛門から前同様の依頼を受けた上前同趣旨の下に供与されるものであることの情を知りながら同人から現金一万円の供与を受けたとの事実、及び原判示第四の(三)において、右候補者の当選を得しめる目的で、同月七日頃肩書自宅で原判示古川次七に対し前同様の依頼をした上前同趣旨の下に現金二千円を供与したとの事実を認定し、これを刑法第四十五条前段の併合罪として処断している。

しかし、原判決挙示の証拠によれば、右一万円は被告人一人が同候補者のため投票取纏等の選挙運動をすることの被告人だけの報酬及び資金として供与を受けたものではない。即ち、被告人は右二月七日右路上で前記渡部半左衛門から二千円は古川次七に前記選挙運動をすることの報酬及び資金として供与されたい旨の依頼を受けてその交付を受け、八千円は前記八田後援会の八田部落の幹部その他に前記選挙運転をすることの報酬及び資金として被告人にその自由処分を一任して供与されたもので(特に、被告人の独断で、被告人の分二千円をとり、七幹部以外の山口辰次に千円を供与し、七幹部に対してもその金額を指示している点からかくみられる)、同日肩書自宅で右古川次七に対し半左衛門から依頼された事情を告げて右二千円を供与した事実関係であることが認められる。

されば、右二千円の受交付は古川次七に対する右二千円の供与(被告人と渡部半左衛門との共謀による供与)に吸収されて別罪を構成しないこと後記(三)において説明するとおりである(なお、これと前記八千円の受供与とは包括一罪)。それ故、この点においても原判決は理由齟齬の違法及び法律適用の誤りをおかしている。

(三)次に、原判決は原判示第四の(四)において、被告人が原判示二月十二日頃肩書自宅で前記小林勇に対し前同様の依頼をした上前同趣旨の下に現金千円を供与すると共に、原判示小林隆及び古川守、小林長、和泉猛の四名に対しても右同様の依頼をして同趣旨の下に各千円宛供与されたい旨請託の上その資金として現金四千円を交付した事実を認定している。

しかし、原判決挙示の証拠によれば、被告人は小林勇に対し千円を供与すると共に、他の六幹部に千円宛供与されたく、ここに四千円あるから不足分二千円はこの前の金(原判示第四の(一)の一万六千二百三十円を指す)から出して貰いたい旨依頼して四千円を交付したもので、小林勇は右の如く依頼されるや、直ちに古川守方を訪ねて同人に対し右の趣旨を伝えて同人の分千円を供与すると共に、他の幹部一名分千円を交付し(古川守が右交付を受けた千円を渡部好雄、和泉猛、渡部清作のいずれに供与したか判然しない、記録第四一八二丁、第九一丁)、更に同日小林長方に赴いて同人に対し前同様千円を、翌日小林隆方を訪ねて同人に対し前同様千円をそれぞれ供与した事実関係であることが認められる。ところで、公職選挙法第二百二十一条第一項第一号ないし第三号の行為をなさしめる目的で選挙運動者に対し金品を交付し選挙運動者がその交付を受けた場合、選挙運動者がその金品を所期の如く他に供与しないでしまつたときは、右両人間の金品の授受は同条項第五号の交付罪又は受交付罪を構成するものであるが、所期の如く他に供与したときは、右両人は右供与の共同正犯となり、交付罪又は受交付罪は供与罪に吸収されて独立の存在を失うことになるものと解すべきである。本件において、右四千円については小林勇は前叙の如く他にこれを供与したのであるから、被告人は小林勇と右供与の共同正犯となり、被告人がこれを小林勇に交付した罪は右供与罪に吸収されて別罪を構成しないわけである。しかるところ、被告人が小林勇に対し古川守等四名に供与すべき四千円を交付したとの起訴事実と小林勇が右金員を古川守等に供与したことに被告人が共謀者として関与したとの事実は、公訴事実の同一性を認め得るものというべきであるから、その間訴因を変更して右共謀供与の事実を認定するのが相当である。

されば、原判決は別罪を構成しない右四千円の交付につき交付罪の成立を認めたもので、判決に影響を及ぼすことの明かな法律の解釈適用の誤りをおかしたものである。

(四)なお、原判決は被告人から三万九千三百七十円を追徴しているが、被告人が供与を受けたのは原判示第一の一万七千円、第二の一万円(うち二千円は受交付)、及び第三の二万円合計四万七千円であり、供与又は交付したのは第四の(一)ないし(四)の合計二万四千二百三十円であるところ、被告人はそのうち合計一万六千六百円を返還されたものであり(記録第二二九丁裏)、以上により計算すれば被告人から追徴すべき金額は原判決の如く三万九千三百七十円となるけれども、更に記録に徴するに、被告人は原判示第一の一万七千円と第四の(一)の一万六千二百三十円との差額七百七十円の全額か又はそのうち百六十円か判然せず、これを確定する必要があるけれども、少くとも百六十円はこれを原判示二月三日頃前記八田部落の七幹部や他の八田後援会の会員等のそば代の代金の一部に支出したものであることが認められる(同第二〇四丁、第二二九丁、第八九丁、第九九丁各表)。ところで、選挙人又は他の選挙運動者に金員を供与すべき旨の負担附にて金員の供与を受けた場合には、その負担の趣旨に従つて支出せられた金額はこれを控除して没収又は迫徴を命ずべきものである。本件において、右一万七千円は前叙の如く一種の負担附受供与であり、右そば代はその負担の趣旨に従つて支出されたものとみるのが相当であるから(右そば代中に被告人の分も含まれているとすればその分は別であることもちろんである)、その金額はこれを控除して追徴をなすべきものである。されば、この点においても原判決は判決に影響を及ぼすことの明かな法律の解釈適用の誤りをなしたものである。以上の次第で、右の諸点においても、原判決は破棄を免れない。

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 細野幸雄 裁判官 岡本二郎)

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